マンションの寿命_5

マンションの寿命_4 からの続き:在宅勤務メインになりそうなので地方に中古マンションを買おうとしたんだけど、マンションの寿命が気になりだして調べてます。コンクリートや配管は適切にメンテ・交換をすれば大丈夫そうだし、そのマンションはどんな構造なのか、どんな素材が使われているのか?については管理組合で竣工図書を確認すれば良いのは分かった)

 

■で、本当に重要なのは?

知りたかったことは、大体、分かった。外壁だの配管だのは、使ってる素材によってメンテナンス・交換の頻度や金額が違うみたいだけど、よほど古い物件でない限り寿命についてはそこまで心配する必要は無さそう。

 

「メンテナンスさえしっかりできているなら」ね。

 

外装の再塗装だとか配管の交換だとかの寿命を伸ばすためのメンテナンスはもちろん、今の日本みたいにこれだけ新築マンションが建てられてたら古いマンションなんてどんどん陳腐化して魅力がなくなって入居者がいなくなってしまうでしょう。住む人がいなくなったら建物の寿命なんてあっという間にやってきます。入居者を維持するためには設備・施設の追加・更新が欠かせないでしょうね(中古マンションの物件情報を見てて「エントランスがオートロックじゃないんだぁ」とか「宅配ボックスが無いのね」とか「バリアフリーじゃないんだ」とか思ったもん)。

 

欧州の古い建物が長持ちするのは、そもそも「古い建物には価値がある」っていう価値観が共有できていて、お金をかけてメンテナンスをしっかりしているからです。パリなんかだと景観を守るために外装のメンテナンスを義務化しているらしいですね。

 

それとたとえば「グラン・トリノ」って映画の中で、クリント・イーストウッドが丁寧に家(一戸建て)のメンテナンスをするんですよね。彼の家の周りにはモン族の移民が住んでいるんですが、モン族は家のメンテナンス方法を知らないから彼らの家はボロボロなんです。それを苦々しく思っていたイーストウッドがひょんなことから隣家の少年に大工仕事を教えはじめて、次第にモン族とも打ち解けていく、っていう展開が面白かったですねあの映画は。

 

欧米人は「建物を長持ちさせたいなら、ある程度のお金をかけて、または、お金をかけられないなら自分の手で、ずーっとメンテナンスする必要がある」ってことを子供の頃から教えこまれ、また自ら体験しているので、メンテナンスの重要性が社会全体に浸透しているんでしょう。

 

日本のマンションの場合、共用部分のメンテナンス費用は通常、「修繕積立金」として徴収しているわけですが、その修繕積立金、「新築〜○年目までは格安として、以降、△年ごとに値上げ」というケースが多いようで、

 

 国土交通省 平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状

 https://www.mlit.go.jp/common/001287053.pdf

 

によると、「修繕積立金に余剰有り」のマンションは3割強。7割弱は「足りない、または、(足りるのかどうか)不明」です。「不明」はつまり「管理できていない」ということで、ほぼ「足りない」と同義でしょう。

 

 長期修繕計画ガイドライン 平成20年6月

 https://www.mlit.go.jp/common/001172730.pdf

 

では長期修繕計画の期間について「新築:30年以上」「既存:25年以上」としていますが、はたしてそれで十分なのかどうか。というのも、マンションに使用されている部材の寿命ですが既に書いたとおり、外壁だと「タイル」は古いものでも30年程度かそれ以上、「吹付けタイル」は15年ごとに再塗装、「ALCパネル」は50年。給水管については「硬塩ビライニング鋼管」なら30〜40年。「ステンレス鋼管」なら継ぎ手部分が30〜40年。排水管については「鋳鉄管」なら50年。大体30年目以降に交換が連続で来ます。他にエレベータや機械式駐車場、手すりその他の金物、各戸のサッシやドアなどの交換もあるでしょう。新築の修繕計画はもっと長期で策定すべきなんじゃないでしょうか。逆に「30年で一通りのことをやってしまい、その後、建て替えるかまだ大規模修繕を続けるのか判断せよ」ということかもしれませんが。

 

 マンションの修繕積立金に関するガイドライン 平成23年4月

 https://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf

 

修繕積立金の額の目安が提示されており、マンションの規模に応じて平米あたりの単価が設定されていますが複雑なので平均を取ると、大体、月に200円/㎡。70㎡の部屋だと14,000円/月くらいとなるわけですが、新築時はその半分程度の物件が多いように思います。また、この資料では修繕積立金を「均等積立方式」と「段階増額積立方式」で比較しています。「均等」で14,500円/月とした場合、30年の合計は522万円。「段階的」で入居時に修繕積立金基金として36万円徴収し、6,000円/月からスタートして5年毎に3,000円ずつ値上げすると30年での合計が同額になります。その場合、26〜30年目には21,000円/月になっています。築26年で修繕積立金が2万円以上というとかなり高いような印象です。さらに、この資料は2011年のものなので、昨今の材料費・人件費の高騰が反映されていないでしょうから、今はもっと高い単価を設定しないと修繕積立金が不足してしまうでしょうね。

 

ということで「修繕積立金 不足」でネットを検索するとやはり様々なサイトが出てきます。そういったサイトでは原因として「初期の設定額が低すぎるため不足が判明しても急な・大幅な増額は困難」「長期修繕計画で想定する期間(新築の場合、30年)が十分でない」「材料費・人件費の高騰が反映されていない」「修繕項目に漏れがある」といったことが指摘されています。

 

つまり、多くのマンションで三十数年後、積立金不足により修繕困難になるかもしれないということですが、そのころになると住人も高齢化しているでしょうし、高齢者は大規模修繕に消極的になることも多いらしいので難しい問題になりそうですね。それについてはまた後ほど。

 

中古マンションを購入するときは「大規模修繕の履歴と今後の計画、修繕積立金の残高をチェックすること」「管理組合の理事会、総会の議事録を確認すること」と言われています。「長期修繕計画ガイドライン」は「新築時に30年の長期修繕計画を策定して5年ごとに見直し、それに合わせて修繕積立金の金額を上げていく」という考えのようなので、そういった運用が回っているのか、将来の修繕積立金の金額が現実的なものか、修繕項目に漏れがないか、などチェックすると良いと思います。

 

ちなみに海外の例だと、フランスでは1948年以前の小規模集合住宅や1949〜70年代に供給された分譲型の集合住宅でメンテナンス不十分なものが多く、それらがスラム化して問題になり、結局、行政が買い取って解体したケースもあったそうです。その際、税金を使ったことや「行政がどうにかしてくれるなら自前では何もしない」といったモラルハザードが問題になったとか(富士通総研経済研究所研究レポート No.429 April 2016 https://www.fujitsu.com/jp/group/fri/imagesgig5/no429.pdf )。そういったこともあり「日本のマンションは大丈夫か?修繕積立金は足りてるのか?」ということで国交省が調査したりガイドラインを作ったりしているようですよ。