マンションの寿命_6

マンションの寿命_5 からの続き:在宅勤務メインになりそうなので地方に中古マンションを買おうとしたんだけど、マンションの寿命が気になりだして調べてた。どうやら重要なのはメンテナンスの継続らしい)

 

■マンションは「立地が全て」「管理を買え」の意味

数年前に「四谷コーポラスが建て替えをすることになった」って聞いたときにちょっと驚いたんです。というのも、マンションの建て替えには区分所有者の4/5の賛成が必要で、これまで建て替えを行ったケースは多くないと聞いていたので。

 

ところがあそこは「古くからの住人が多く、中には二代三代に渡っての住人もおり、管理組合の結束が硬い」とか「四ツ谷駅から徒歩5分の好立地」「28戸から51戸に増やすことが可能で、増えた分を分譲に出すことで既存住民の負担を軽減できる」といった好条件が重なっていたので成功したようですね。

 

「南青山第一マンションズ」も数年前から建て替えの話が出ていますが進んでいないようです。あそこは規模も大きく住人も様々でしょうから意見をまとめるのは大変でしょう。ただ、表参道駅の真上、横長の堂々とした姿を見ると「特に重大な不具合が無いなら、これを解体するのは勿体無いなぁ」とも思いますね、正直。

 

それらのマンションで建て替えの話が出るのは、どちらも好立地だからです(四谷コーポラスの場合は「耐震強度不足なので補強工事が必要だがかなりの金額になる」「漏水が頻発しているが工事が不可能」といった事情もあったようです)。莫大な費用をかけて建て替えても、なにせ立地が良いから売るにも貸すにも不自由せず、採算が取れるわけです。

 

一方、郊外住宅地の普通のマンションだと、最近のものは容積率ギリギリで建てられているだろうし、これから人口が減少する日本で、建て替えて採算が取れるものはほぼ皆無なんじゃないかな。大規模修繕を繰り返して延命していくしかないでしょう。

 

その大規模修繕。区分所有者の3/4の賛成が必要なわけですが、郊外住宅地の普通のマンションであれば三回目の大規模修繕の頃には多くの住人が年金生活者でしょう。自分の代で住み潰すつもりの老人はただでさえ大規模修繕には消極的なはず。その上、積立金不足を補うために月々の修繕積立金の大幅増額を要求されたり一時金を求められたりしたら賛成するとは思えません。

 

それにそういったマンションでは「中古で買って途中から加わった住人」とか「賃貸に出している人」とか「親から相続したが自分は別のマンションに住んでいるので空室状態」とか「親から相続してそのまま住んでいる人」とか、住民構成が複雑でしょうから意見が揃わず、3/4の賛成を得るのは困難だと思うんですよね。

 

となると、管理組合がゴタゴタしだすだろうし「メンテナンス不十分で老朽化が進む→住人が減る→価格が下がり得体の知れない住人が増える→最悪、マンション自体がスラム化する」といったことで安住できるような環境じゃなくなると思うんです。人生の終盤でそんな揉め事に巻き込まれるのは勘弁してほしい。まして、自分が死んだ後にそのマンションを相続した子供が巻き込まれるのは避けたい。

 

おそらく多くのマンションは、最終的に解体するしかなくなるんじゃないでしょうか。となると修繕積立金は解体費用まで含んだ額にする必要があるはず。もしくは、国が区分所有者から解体費用を強制的に徴収するとか(固定資産税の増額など)。ちなみにマンションの解体費用は、規模や作りにもよるでしょうが、定期借地権付きマンションでの事例だと一戸あたり200万円程度だそうです(富士通総研経済研究所研究レポート No.429 April 2016 https://www.fujitsu.com/jp/Images/no429.pdf )。

 

「そんな先のことを心配してどうすんの?」って感じかもしれませんが、「将来、資産になりますよ」って言われて買ったマンションでしょう。ようやくローン返済が済んだ直後に、自分ではコントロールしようのない理由で面倒な問題が発生し、最終的にはほぼ無価値になった上に解体費まで負担させられるとしたら、どうなんでしょう。無茶な住宅ローンを組んでマンションを買った結果、会社にしがみつくしかないような人が私の周りにも大勢いますが、本当にそこまでして手に入れる価値があったんでしょうかそのマンション。

 

子や孫の代まで残すことができ、本当の意味で「資産」といえるマンションは

・駅前などの好立地にあり

・住人は経済的に余裕があり修繕積立金も潤沢でメンテナンスが行き届いていて

・住人同士で価値観が共有され管理組合の運営も円滑

といった富裕層にしか手の届かない物件ということなんでしょうね。

 

「マンションは立地が全て」とか「マンションは管理を買え」って言葉を聞きますが、こういうことなんでしょう。強烈なインフレでも起こらない限り、普通のマンションが資産になることは無さそうです。

 

外壁や配管など主要な部材類の寿命が30年かそれ以上、住宅ローンの設定期間が大体は35年、新築マンション購入者の平均年齢が39歳ほどだそうで、日本人の寿命が男性なら84歳。なんだか不動産業界や金融業界の意図というか「このマンションに住むのはどうせ親世代だけ。子世代にはまた新築マンションを買わせれば良い」といった考えが透けて見えてくる気がしますがどうでしょうか。国交省も大規模修繕を「30年ワンサイクル」で考えているようですし。

 

■まとめ

たとえば1950〜60年代のマンションだと構造的な問題があって(耐震強度不足とか、漏水を直す方法が無いとかで)50年程度で解体ということが多かったと思うんです。また「1970年代のマンションを購入しようとしてます」といった場合は、コンクリートはどんな状態だとか配管には何を使ってるのかとか調べることに意味があると思うんです。でも、平成以降のマンション、特に21世紀に入ってからのものは、まともな企業が作って現代基準の検査をパスしているなら「マンションの物理的な耐久性」を心配する必要はほとんどなさそうなんですよね。いやもちろん「杭が岩盤に届いていない」とか「耐震強度が偽装されていた」とかは問題外ですけど。

 

それよりも重要なのが「メンテナンスが適切に行われているか」「修繕計画は適切か」「修繕積立金の残高は十分か」「管理組合が機能しているか」といったことのようです。

 

だから「インスペクション」を実施したり「竣工図書」を確認するのももちろん大切ですが、「長期に渡ってのメンテナンスが可能かどうか」という視点で「大規模修繕履歴・計画」「修繕積立金の残高」「管理組合の理事会議事録、総会議事録」などをしっかりとチェックしたほうが良さそうですね。

 

それと本当に資産になるマンションはとにかく「好立地」。立地さえ良ければ何かあっても売るのも貸すのも困らないし、もしかすると子や孫の代になったら建て替え後の物件を(少ない自己負担で)再取得できるかもしれません。

 

まとめるなら、マンションの寿命が尽きるのは

 

  • 郊外住宅地の普通のマンション:十分なメンテナンスができなくなったとき=管理組合が機能しなくなったとき
  • 好立地のマンション:立地の優位性が失われたとき

 

といったところでしょうか。前者については、思いの外、早く来そうです。

 

ちなみに、最近は築30年くらいのマンションをリノベした物件が人気らしいですが、それこそこういった話の先行事例でしょう。たとえば、何もしなかったら2,000万円の物件を700万円かけてリノベして3,000万円で売れば、それなりの経済状態の人が入居してくるわけですが、そういったマンションではおそらく何回目かの大規模修繕がすぐに来るわけです。従来からの住人(もう住み潰すつもりだから大規模修繕は最低限にしておきたい)とリノベ物件に入居してきた若者(これから30年40年は住み続けたい)とで意見が合うかどうか、管理組合が機能するかどうか、ウォッチしておくと参考になるかもしれないですね。

 

もしかすると

・メンテナンス不十分で空き家だらけ・わずかな住人は老人だけ

→価格下落

→得体の知れない居住者が増え、最悪、スラム化

がリノベによって、

・メンテナンス不十分で空き家だらけ・わずかな住人は老人だけ

→空き家はリノベして高値で売る

→経済的に余裕のある住人が増えはじめる

→管理組合が機能しはじめ大規模修繕が徹底される

に変わるかもしれないし。ただ、そういったやり方だと入居者の入れ替わりに時間がかかるから難しいだろうな、とは思います。「全室空き家のマンションを一棟買いしてリノベして全室一斉に再販売」といったことができればまた別ですが、そこまでする価値のあるマンションは少ないでしょう。

 

結局、「リノベした部屋だけピカピカ。共用部分はボロボロ」といったマンションが増えそうな気がします。

 

■で、どうする?

そもそも”家が欲しい”っていう欲望は動物としての本能なんでしょうね。人間だって元々は動物なんだから、自分の巣を手に入れて自分好みの心地よい空間にしたいんでしょう。「マンション、買っちゃおっかな」って思ったときに不覚にもちょっとワクワクしたんだけど、あのワクワクは本能から来るものだったと思う。じゃなきゃ本来ケチな私がマンションなんて高い買い物でワクワクするわけがない。それと、人間は30年とかそれ以上の長いスパンで物事を考えるのは苦手みたいですね。「その頃はまたどうにかなってるんじゃない?」とか「今からそんなこと心配したって仕方がないよ」とか。

 

普段は理性的な人が、ことマンションの話になると急に支離滅裂になるのを私の周囲でも割と頻繁に目にしますが、本能の赴くままに行動して、それを無理やり正当化するからそうなってしまうのかもしれないですね。

 

ということで、私はずっと賃貸で行くことにしました。いよいよになったら「有料老人ホーム」か「サービス付高齢者向け住宅(いわゆる「サ高住」)」に入ります。子や孫に迷惑かけたくないし。

 

しばらくは、いまの賃貸物件に住みながら、その地方都市の賃貸物件のチェックを継続していきます。地方だと分譲賃貸がそこそこ安い家賃で出ているんですよね。それをチェックするのが割と楽しい。

 

■付録

仮に「35歳で4,000万円のマンションを頭金500万円・残り3,500万円を金利1.0%の35年ローンで購入」し75歳までの40年間住むとして、管理費+修繕積立金=30万円/年、固定資産税=10万円/年、リフォームなど(ユニットバス、洗面、トイレ、キッチン交換。給排水管交換など)=500万円、としたら総額がいくらになるかと言うと、

 

  4,000万+650万(金利)+30万×40年+10万×40年+500万=6,750万円

 

これを月ごとの家賃に換算すると

 

  6,750万円÷40年÷12ヶ月≒14.0万円/月

 

ということになります。

 

仮に最後の最後にマンションを解体した場合、その土地が売れるかどうかというと人口減の数十年後の日本では期待できないかもしれませんね。それに、修繕積立金に解体費が含まれていないなら解体にかかった費用は区分所有者の持ち出しになるでしょう。

 

こうなるとマンションっていうのは「体の良い賃貸団地」に思えてきますね。

 

おわり